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「イノベーションが全てを解決する」は、気候変動問題には当てはまらない
2022-01-23

こんにちは、コードシティの加藤章太朗です。昨今、気候変動問題が多くの企業活動に影響を与え始めています。日本では、2022年から上場企業(プライム市場)に義務化される温室効果ガスの算定・報告義務です。運用資産額9兆ドル(約990兆円)を超えるとされる世界最大の資産運用会社BlackRockは、投資家向けに気候変動リスクへの情報開示や対策を求めています。

ここから、人類はどのようにして気候変動を乗り切れば良いでしょうか。

これまでの歴史を見ると、人類は困難に直面すると、技術革新(イノベーション)を起こし、壁を乗り越えてきました。しかし、残念ながら気候変動問題に関しては「イノベーションが全てを解決する」とは言えません。

今回は、

・なぜ気候変動問題はイノベーションだけで解決しないのか。

・気候変動問題の解決に必要な「イノベーション以外のアプローチ」は何か。

について考察します。

気候変動の脅威

2021年に眞鍋 淑郞さんがノーベル物理学賞を受賞したことは記憶に新しいかと思います。眞鍋さんの研究は、大気中の二酸化炭素の増加に伴い地表の温度が上昇することを、コンピュータを活用して世界で初めて数値化したものです。

そして、眞鍋さんを始めとした世界中の科学者の研究によって、地球温暖化が人為的なものだと示唆されるようになり、気候変動の予測シナリオが作成されました。IPCCの報告によれば、適切な対策をしない場合、2100年までに産業革命前と比べ、地球の平均気温は最大で4.8度上昇するとのことです。

「地球の歴史を見れば、現在は氷河期であり、今よりも温暖化していた時期もある」という意見もありますが、70億人の人間が存在する現代における温暖化は、過去の人類は経験したことがありません。海面上昇やハリケーン、洪水によって、多くの人が住居を追われることになり、資源の奪い合い、水不足等が起きるリスクも高まります。これらを鑑みると、過去起こった数々の人類の危機と比べても、「気候変動問題」は文明の存続にとって非常に大きな脅威と言えます。

「エネルギー摂取量の増大」は人間の本能

気候変動の原因であるCO₂の排出源に着目してみましょう。日本のデータを見ると、CO₂の排出源の約93%がエネルギー由来(*)となっております。

(*)エネルギー由来とは、燃料の燃焼で発生・排出される二酸化炭素を指します。

つまり、気候変動問題の解決策を探るためには、エネルギーについて理解する必要がありそうです。

普段意識することはあまりありませんが、すべての生物は太陽エネルギーからできています。

植物が太陽エネルギーを摂取し光合成を行い、デンプンを作ります。その植物を草食動物が食べ、草食動物を肉食動物が食べます。そして、人間は植物、草食動物、肉食動物を食べます。そして歴史を振り返ると、人類は様々なテクノロジーを駆使し、エネルギー革命を起こし、太陽エネルギーをより多く利用できるようになってきました。人類は、すべての生物間で行われているエネルギー獲得競争に勝ってきたとも言えます。

以下、「エネルギーをめぐる旅」という書籍を引用しながらこれまでに起きたエネルギー革命への理解を深めていきます。

エネルギーをめぐる旅――文明の歴史と私たちの未来

第1のエネルギー革命:火

約150万年から100万年前に、人類は生物の中で唯一火を利用できるようになったと推定されています。火の明かりと熱で、肉食獣は洞窟に近づくことができなくなり、木の上に登らずとも安心して眠ることができるようになりました。

苦労して採った食べ物を他の動物に取られることもなくなったのです。

また、食べ物に火を通すことで、雑菌を殺せるようになり、消化器官への負担を軽減できるようになりました。それにより、人間は摂取できるエネルギー量を最大化できるようになりました。

つまり、第一のエネルギー革命である「火」により、人間は自然界の中で自らの立場を大きく引き上げることができました。

なお、人間は火を使った調理をすることで消化にかかるエネルギー負担を減らし、胃腸を相対的に小さくすることに成功したとも言われています。

そして、本来、消化器官が行うはずの仕事を火が行うことで、余剰エネルギーを生み出し、そのエネルギーは脳へと投資され、人間の脳が大きくなったということも言われているのです。

第2のエネルギー革命:農耕

約1万年前に始まったと言われる「農耕」が第2のエネルギー革命です。ムギ、イネ、トウモロコシ、などの栽培が容易で保存に長ける植物を大量に育てることができるようになったことで、人間は更にエネルギー摂取量を増やしました。農耕生活が始まる以前の今から約1万2000年前の時点では500~600万人だった世界人口は、今から2000年前には約6億人まで到達したと言われています。これは、「農耕」によって人類が利用できるエネルギー量が100倍に増えたとも言えます。

第3のエネルギー革命:蒸気機関

第3のエネルギー革命は「蒸気機関」です。蒸気機関以前にも、風車、水車の発明、など様々な動力機械の発明がありました。これら個々の発明も、エネルギー利用量を増やしたという意味では、エネルギー革命と言えるかもしれません。しかし、これらは天候や地形の制約に基づいたものでした。水車は水が流れている場所にしか設置できません。

こうした自然環境の制約を解き放ち、社会の仕組みそのものも変えてしまったものが「蒸気機関」です。

「蒸気機関」とは、石炭を燃やし水を加熱することでできた水蒸気の熱エネルギーを使ってピストンを動かし、それを運動エネルギーへと変換する仕組みです。

つまり、熱エネルギーを運動エネルギーに変換することができるようになったのです。この点が、それまでの風車や水車などの動力機器のいずれとも異なる革新性です。

水車の場合は、水車を設置するために最適な地形にしか設置できませんでしたが、蒸気機関は違います。

石炭を運び、蒸気機関を設置さえすれば、どのような場所でも運動エネルギーを生み出せるのです。

これにより、農耕をする(大量の太陽エネルギーを摂取する)上での労働の担い手であった馬や牛、文明の闇である奴隷等の仕事を、機械が代わりに行える可能性が開けました。

つまり、蒸気機関は社会構造が大きく変わるきっかけとなった言えます。

第4のエネルギー革命:電気

蒸気機関の発明の後、「電気」の発明が起こります。電気の発明に関わった人物は様々ですが、多くの人に知られているのはエジソンでしょう。

電気はエネルギーの移送を可能にした発明です。蒸気機関だけでは蒸気機関がある場所でしか運動エネルギーを生み出せません。

しかし、電気の発明によって、エネルギーを電気に変え移送することで、移送先で使うことが可能になったのです。例えば、家には蒸気機関はないですがエネルギーを使えますよね。

これにより、人類が利用できるエネルギー量は爆発的に増えました。

普段の生活で当たり前に使える大量のエネルギーは、第4のエネルギー革命のおかげとも言えます。

第5のエネルギー革命:人口肥料

第5のエネルギー革命は「人口肥料」です。19世紀初頭、ヨーロッパでは化学分析の手法が生み出され、様々な物質や元素が発見されるようになりました。

ドイツの科学者であるリービッヒは、化学分析の手法を使い、窒素、リン、カリウムが肥料の主成分であることを突き止めました。

そしてその後、肥料の主成分である窒素を人工的に固定するハーバー・ボッシュ法が開発されたのです。

ハーバー・ボッシュ法を使って窒素を固定化できるようになったことで、人工的なエネルギーを投入して農作物を創れるようになり、食糧生産における自然界の限界を突破できるようになりました。

人口肥料と電気機械を合わせることで、トウモロコシなどの穀物を工業製品化することに成功し、大量生産できるようになったのです。

結果、1900年初頭は16億人程だった世界人口は、1950年には25億人を超え、2000年頃には60億人を突破するに至りました。

これらエネルギー革命の結果、紀元前1万年に500万人程だった世界人口は、1900年初頭は16億人、1950年には25億人を超え、2000年頃には60億人を突破するに至りました。

地球の歴史からしたらほんの一瞬のわずか1万年程で、人類が摂取する総エネルギー量は数千倍、数万倍に増えました。

このように、太陽から注がれるエネルギーを人類が大量に求め続けた結果が、現代社会です。‍

人類は、様々な技術を発明し、地球上で行われる太陽エネルギーの獲得競争に勝ち、膨大な太陽エネルギーを利用・独占するようになりました。

これらのエネルギー革命は、人類にとって光の側面が大きかったことは疑いはないですが、影の側面もあります。

影の側面の最たるものが、ここ数十年で顕在化してきた気候変動問題です。

イノベーションと気候変動問題は共に進展する側面がある

気候変動問題をどう解決するか?と起業家に意見を聞けば「イノベーションが問題を解決する」と言うかもしれません。

もちろん、再生可能エネルギー、水素等を活用した蓄電、代替肉、などのイノベーションが環境問題の解決に必須なのは疑う余地はありません。

しかし、ここまで見てきたエネルギー革命の歴史から認識しておくべきことがあります。それは、人類には「エネルギー摂取量を際限なく増大させる本能」が組み込まれており、その本能がイノベーションと気候変動問題を同時に起こしている、ということです。つまり今のところは「イノベーションと気候変動問題は共に進展する側面がある」とも言え、イノベーションを起こすだけでは気候変動問題が悪化する可能性が高いのです。

「イノベーションと気候変動問題が共に進展する」に類する考え方として、ジェボンズのパラドックスという概念があります。

これは、技術の進歩により資源利用の効率性が向上したにも関わらず、資源の消費量は減らずにむしろ増加するというパラドックスのことです。この考えを提唱したジェボンズは、19世紀に「石炭問題ー国家の進展と炭鉱の枯渇可能性に関する研究」という本を書き、省エネ技術が逆に資源の消費量を増加させてしまうことを示しました。例えば、ジェームス・ワットによる蒸気機関改良について注目しました。ジェームスワットは、蒸気機関に復水器をつけることで、同じ出力を得るために必要となる石炭の量を従来の半分以下にまで減らすことに成功しましたが、その発明の結果が産業革命に始まるエネルギーの大量消費につながりました。

これらを考慮すると、気候変動問題を解決するためには、技術を進歩させると同時に、人類に根付いている「エネルギー摂取欲求(本能)」の暴走を何かしらの形で抑える必要があります。そして、人類の欲求を加速させたり減速させるのは、経済システムの役割です。

現状の経済システムの問題

これまでの歴史の中で「人類のエネルギー摂取欲求」を爆発的に加速させた装置があります。それが「資本主義」という経済システムです。

「Global direct primary energy consumption」Our World in Dataより

データを見ると人類のエネルギー消費量の増大は産業革命をきっかけとしていますが、自由主義・資本主義経済が世界に広がったことで、エネルギー消費量は爆発的に伸びたことがわかります。

資本主義経済の下であれば、誰もが自由に競争し、利潤を最大化することが正当化されます。

資本主義という経済システムが導入され、数多くの人が豊かになり、一時的には格差は大きく縮小しました(現在また格差は広がりつつありますが、それは後述します)。

数々のイノベーションにより、公衆衛生や医療が進展し、世界の平均寿命は1950年から2016年までの56年間で52歳から72歳に伸びました(*)。

(*)LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界より

また、1日あたり1.9ドル以下の所得である極度の貧困状態に陥っている人々の人口も減少に転じ、絶対的な貧困数は減少しているという意見もあります。(1日当たり1.9ドルという水準が低過ぎであり、1日当たり7.4ドルのラインにすれば1980年以降増えているという指摘もあることは記載しておきます。)

「World population living in extreme poverty, World, 1820 to 2015」Our World in Dataより

このような資本主義の技術革新は光の側面ですし、今後も人類に必要な側面です。

しかし、資本主義には影の側面もあります。資本主義の下では、利潤を最大化することが正当化されます。利潤を最大化すると通常はエネルギー消費量も増大します。つまり、資本主義の下では、エネルギーを際限なく利用することが正当化されていると言えるのです。

また、現状の資本主義の別の問題として「21世紀資本論」にて経済学者のトマピケティが提唱した「r > g」という「格差が無限に拡大していく可能性を持った法則」があります。18世紀まで遡って世界の経済データを分析したところ、資本から得られる収益率が年間約5%だったにも関わらず、経済成長率は1~2%しかありませんでした。

これはどういうことかと言うと、資産運用により得られる富は、労働によって得られる富よりも成長が早いということ。つまり「資産を持つ裕福な人はより裕福になり、労働でしか富を得られない人は相対的にいつまでも裕福になれない」ということを示した式です。

例として、ハーバード大学の資産運用が挙げられています。

2010年時点でハーバード大学の運用資産は約3兆円。1980年から2010年までの平均資本収益率は10.2%でした。つまり、そこからこの成績で運用を続ければ、年間3,000憶円ほどの収益が上がり、複利で資産が増えていくことになります。

なお、当時のハーバード大学は資産の管理に毎年約100億円を投じ、一流のポートフォリオマネージャーを採用してました。それにより、特別な専門知識や資産規模がないと手が届かない高利回りの商品をポートフォリオに組み込むことができていました。さらに重要なこととして、100憶円のコストは、当時のハーバード大学の運用資産のわずか0.3%に過ぎません。

つまり、多くの資産を持てば、元本をほぼ減らさずに勝ちやすいポートフォリオを組むことができ、資産が増殖し続けるということが言え、これが「r > g」のメカニズムの一部です。これは、大学だけでなく個人の超富裕層にも当てはまります。一方、資産を持たない人は、投資にお金を回すこともできません。仮に回せたとしても、所得の多くを生活費に充てることになるため、良いパフォーマンスを出すポートフォリオを組むお金と時間はありません。

以上が、トマピケティの「r > g」つまり格差拡大の簡単な説明になります。21世紀資本論の内容についてはとても書ききれませんので、興味を持った方はぜひ読んでみてください。

ここで「なぜ気候変動の話なのに格差の話が出てきたのか?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、気候変動問題に対峙する上で、この格差問題は避けて通れないのです。

というのも、今後、気候変動問題が深刻化した際に、大きな被害を受け、衣食住を脅かされるのは経済的に貧しい人々です。(気候変動の大きな原因を作っているのは経済的に豊かな人々のライフスタイルにも関わらず)

経済的に貧しい人々は、気候変動によって生じる海面上昇、ハリケーン、洪水、水不足等によって、住む場所を追われるリスクが増したとしても簡単に移住できません。一方で、経済的に富める人は安全な場所に移住すれば事なきを得る可能性が高いです。

資本主義経済を追求することで、経済的に富める人々が気候変動の原因を作り、その被害を受けるのは貧しい人々、という矛盾した構造が生まれているのです。

この際限のないエネルギー利用や格差を助長する「現状の資本主義」には、税と社会保障という「ブレーキ」の再設計が必要です。市場のみに任せると、勝者と敗者が生まれたり、地球環境などの人類の共有財産も奪われかねません。そこで、税と社会保障を機能させ、うまく社会のバランスを取らなければならないのです。もちろん、政府が過度に市場に介入することの弊害もあるので、バランスが大切です。

必要な3つのブレーキ

ここからは、私個人が現状では最も筋が良さそうだと思われる新たな「ブレーキ」について記載します。

ブレーキ①(税金):炭素税

エネルギー消費量の際限ない増大を抑えるブレーキとしては、炭素税が有効です。炭素税とは、燃料・電気の利用つまりCO₂の排出に対して、排出量に比例して課税を行う仕組みです。実は、日本でも2012年より化石燃料の輸入業者に対して、CO₂の排出量に応じて課税する地球温暖化対策税が導入されています。しかし、欧州の炭素税と比較するとかなり緩い水準となっており、今後段階的な引き上げが必要と言われています。もちろん、エネルギーコストが高くなるなどのデメリットもあるので、慎重に検討を進めることは必要です。

ブレーキ②(税金):累進的な資産課税

気候変動の加害者と被害者の矛盾、つまり格差拡大へのブレーキとしては、トマピケティが提唱する「累進的な資産課税」が最適に思えます。歴史をさかのぼると、19世紀以前のヨーロッパなどは現代では考えられない格差社会でした。21世紀資本論によると、19世紀以前のヨーロッパではトップ1%の富裕層が国の総資産の50~60%(イギリスやベルエポック期のパリでは70%)を所有していました。

そこから20世紀に入り格差は縮小していきましたが、ここ数十年で再度格差が大きくなっており、今後19世紀以前よりも大きな格差が生まれる可能性が指摘されています。19世紀以前は、貴族の相続財産で大きな格差が生まれましたが、現代はスーパー経営者の台頭が格差に寄与しています。

フォーブス誌が発表した2021年版の世界長者番付によれば、資産額1位はAmazon.com創業者のジェフベゾス氏で、約19兆2,900億円となっています。2位はテスラモータースやスペースXの創業者のイーロンマスク氏で、16兆4600億円。なお、4位のビルゲイツ氏の資産は13兆5,200億円ですが、第一線を退いた2008年時点の約4兆円から大幅に資産が増加しており「r > g」の分かりやすい事例かもしれません。

このように「r > g」の法則のもと資本が蓄積され続けると、世界の格差が拡大し続けるということが指摘されています。こうした状況に対し、トマピケティは累進的な資産課税の導入を提案しており、私もその考え方に賛成です。もちろん、ビルゲイツ氏のように「超富裕層が社会的な活動に資産を投じる」という希望的観測に賭けることもできますが、実際に世界中で格差は拡大しつつあるので、何かしらのブレーキシステムが必要です。

なお、現在すでに固定資産税などの資産課税は存在しますが、現代社会の格差の大きな要因になっている金融商品に対する資産課税は十分に整備されていません。資本主義の勝者の資本が無限に増殖されていく状況では、利潤の果てしない追及とそれに伴うエネルギー消費の無限の増大に対してブレーキがかかりません。

資産に適切な税をかけることができれば、少なからず格差増大やエネルギー消費量の際限ない増大へのブレーキになり得るのではないでしょうか。

なお、資産課税と言っても、21世紀資本論でピケティの例示しているのは、100万ユーロ以下の純資産には0%、100~500万ユーロの範囲では1%、500万ユーロ以上は2%、10億ユーロ以上には5~10%等です。

数値については国によって最適解は違うでしょうし、民主的なプロセスで決められるべきです。ですが、資産税の基本的なコンセプトは多くの一般的な人にはあまり影響がない上、格差の拡大にストッパーができる良いアイデアだと感じます。

もちろん、タックスヘイブンによる租税回避などの問題は複雑かつ根深く、そう簡単に世界中の人々の資産を可視化し、課税をすることはできないでしょう。各国の税引き下げ競争によって「優秀な人が国外に出て行ってしまう」という懸念も払しょくする必要があります。

また、企業経営者など株式を保有することで、経営の安定化を図るような人にとっては、株を現金に変えるタイミングは少なく、資産に課税されると支払いができないという問題もあります。昨今話題になっているブロックチェーン技術を使った新たな組織DAOに対する税制では、期末含み益課税という資産課税に似たような概念が取り入れられており、日本ではDAOを運営することが非常に難しくなっています。

世の中にイノベーションを生みだす活動を妨害する税制は不健全だと言えるので、資産課税の在り方についてはまだまだ議論が必要ですし、最適な形が模索されるべきでしょう。最適な形に調整するという前提で、資産税という大きなコンセプトは必要不可欠な気がします。

なお、こういった議論をすると「かつての社会主義に戻るのか?」という指摘をよく聞きますが、それは明確に否定しておきます。あくまでも、資本主義の光の面は今後も継続しつつ、顕在化してきた影の部分に対するブレーキの在り方を改良する必要があるということです。「r > g」が過度に効き過ぎている世の中に必要なのは、現状の所得税中心の税制よりも(最適な形の)資産税中心の税制ではないか、と感じるのです。

ブレーキ③(社会保障):ベーシックインカム

誰もが人間らしい生活をするために税金と社会保障は存在しています。しかしながら、既存の年金、生活保護、等の社会保障が、機能しづらいケースが顕在化してきています。それに伴い、ベーシックインカム導入の議論が活発化しています。私も、これからの世の中の社会保障の在り方として、ベーシックインカムが最適だと考えています。

もちろん、国によっては機能しづらい国もあるかと思います。しかしながら、ベーシックインカムには様々な設計ができるかと思いますので、日本のような既存の仕組みに限界が生じている国から導入し、新たな分配の仕組みとして世界的にデータとノウハウを蓄積していくべきだと感じます。

ベーシックインカムのメリットは以下です。

1.衣食住の確保

ベーシックインカムを取り入れることで、誰もが衣食住を確保できる世界を実現できるようになります。それにより、現状生活に困っている人々や、今後、気候変動問題が深刻化したとして、その影響を受ける貧しい人々を救うことにもつながります。

2.経済の安定化

生活への不安がなくなることで、経済の安定化が見込めます。通常、政府(中央銀行)は景気をコントロールすることが求められます。賃金を上昇させたり、失業率を低下させるために、需要を喚起すべくマネーサプライを増やしたり、国債を発行し公的資金を様々な領域に投入します。

一方で、ベーシックインカムが全国民に支給され、最低限の衣食住が確保されるようになれば、人々の将来への不安が減少します。これは、どのような需要喚起策よりも、有効に機能する可能性が高いのではないでしょうか。そして、需要が安定すれば、経済も安定します。もちろん、産業構造の改革やそこから生まれるイノベーションが必要である、という前提はありますが。

ベーシックインカムのデメリットは、勤労意欲がなくなるのではないか、財源はどうするのか、などがあります。

勤労意欲については、ベーシックインカムの金額次第だと言われております。例えば、働かなくても月30万円もらえるとなれば、勤労意欲は低下するかもしれません。一方で、月7万円~10万円などの適切な金額であれば、生活水準を上げるために勤労意欲は下がらないとも言われております。財源については、資本税だけでまかなえない可能性もありますので、既存の社会保障の一部を転用する形が現実的とされています。

資本税をどのくらいにするかにもよりますが、例えば日本で考えると、個人の金融資産が約1,900兆円、企業の金融資産が約1,200兆円です。仮に平均で2%の資本税をかけることになれば、60兆円の財源ができます。ベーシックインカムで代替できそうな年金は約11兆円の予算。ここにベーシックインカム下で不要になる雇用保険の予算も追加されます。

実行の難易度は高いと言えど、実現は不可能ではありませんし、相応のメリットがあると感じます。

以上、私なりに筋が良いと思う「ブレーキ」を記載しました。

具体的なブレーキの中身は、炭素税、累進的な資産課税、ベーシックインカム以外にも最適なものがあるかもしれません。しかし、いずれにしても人類がこれから気候変動問題を乗り切るためには、イノベーションを起こすと同時に、人類に根付いている「エネルギー摂取欲求(本能)」に適切なブレーキをかけることが必須であり、技術だけではなく経済システムのアップデートも考えていかなければならないのです。

これら経済システムの変革を実現させていくのは、経済学者や政治家の方々の役割であり、投票によって実現を促していくのは投票権を持った人々の役割だと思います。

気候変動問題の解決に必要な必要なイノベーションについては、再度別の記事で深堀りできたらと思います。


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