今回は、全世界の時価総額50%以上が参加する環境問題の情報開示プラットフォームCDPについて説明します。ESG担当、CSR担当、サステナビリティ担当の方は必ず押さえておくべき知識となります。
<目次>
・CDPとは
・他の環境関連の国際基準との関係
・CDPのスコア公表までのフローとスケジュール
・CDPの質問書の中身
・CDPの質問書に備えESG担当者がすべきこと
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CDPとは、2000年にイギリスで設立された環境非営利団体で、環境に関する情報開示システムを開発しています。CDPが作成した環境に関連する質問書に企業や自治体が答えることで、企業や自治体の環境へのインパクトが可視化されます。CDPの情報開示システムは、環境報告のグローバルスタンダードとなっており、環境インパクトに関して世界最大のデータセットを保有しています。投資家、購買企業、政策決定者は、CDPのデータを基に、投資や取引の意思決定をすることができます。
「CDP概要と回答の進め方」を参考に作成
投資運用総額106兆米ドル超、515を超える投資家が、2020年にCDPに署名しています。日本でも、以下の18機関が署名しています。
・MS&ADインシュアランスグループホールディングス
・日本政策投資銀行
・SOMPOホールディングス
・大和証券グループ本社
・東京海上アセットマネジメント
・東京海上日動火災保険
・日興アセットマネジメント
・ニッセイアセットマネジメント
・農林中央金庫
機関投資家に代わりCDPが、企業に対し環境の取り組みについて情報開示を要請するのが「投資家向けスキーム」です。一方で、サプライチェーンプログラムのメンバー企業や団体に代わりCDPが、メンバーのサプライヤーに対して情報開示を要請するのが「サプライチェーンプログラム」です。投資家スキームは上場している大企業が要請先になるのに対し、サプライチェーンプログラムは、非上場企業でも情報開示の要請先となり得ます。
このサプライチェーンメンバーが2020年には155社以上となり、そのメンバーのサプライヤーである回答要請先は15,000社以上となってます。
サプライチェーンメンバーは世界を代表する巨大企業も多く、購買力は4兆米ドルを超えており、凄まじい規模となってます。
2020年にCDPが質問書を送り回答があった企業は、9,600社を超えており、世界の時価総額の50%以上の企業がCDPの質問書に回答しています。
2020年にCDPに情報開示をした都市は800以上となっており、120を超える州や地域が環境インパクトを開示しています。
CDPを通じて情報開示をする企業は年々増えています。2020年の回答数は2019年より14%増加しており、2003年と比べ40倍以上の企業が情報開示を行っています。
「CDP概要と回答の進め方」を参考に作成
本メディアで度々解説をしているGHGプロトコルシリーズなど、他の環境関連の世界基準とCDPの関係を説明します。CDPの質問書は、気候変動、水セキュリティ、フォレスト、の3種類がありますが、以下、気候変動にフォーカスして説明をしてきます。
TCFDとは、G20の要請を受け、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するため、マイケル・ブルームバーグ氏を委員長として設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」のことを言います。CDPは、TCFDと整合性を持たせた質問書を作成します。作成された質問書の項目の中には、温室効果ガスの算定・報告に関連する項目があります。
そこで関係してくるのが、GHGプロトコルシリーズです。GHGプロトコルシリーズの「企業基準」や「スコープ3基準」に従って適切に温室効果ガスの算定や報告を行うことで、高いスコアを獲得できます。そして、その質問書に企業が回答し、情報開示を行います。その情報を元にCDPなどの格付け機関がスコアリングを行います。
CDPのスコアが公表されるまでのフローとスケジュール(2021年)は以下です。
・1月:質問書の公表
・4月:スコアリング基準の公表
・7月:回答提出の締め切り
・秋:回答の公開
・冬:スコアの公表
気候変動のCDPの質問書は、以下が主な質問項目となっています。
・ガバナンス
・リスク、機会
・事業戦略
・目標と実績
・排出量算定方法
・GHG排出量
・排出量詳細
・カーボンプライシング
・エンゲージメント(協働)
「気候変動に対処するためのガバナンス体制ができているか」を明らかにする質問項目です。例えば、以下のような質問があり、回答に対してスコアがつきます。(質問はあくまでも例であり、変動する可能性があります。)
・組織内に気候関連問題の取締役会レベルの監督機関はありますか?
・取締役会における気候関連課題の責任者の職位をお答えください。
・気候関連問題の取締役会の監督に関して詳細を記入してください。
・気候関連問題に責任を負う最高レベルの職位または委員会をお答えください。
・この職位または委員会が組織構造内のどこに位置するか、その責任の内容、および、どのように気候関連課題のモニタリングを行っているかをお答えください。
・気候関連問題の管理に対してインセンティブを提供していますか?
・気候関連問題の管理に対して提供されるインセンティブについて具体的にお答えください。
「気候変動に対処するリスクや機会を把握し、それらに対処できているか」を明らかにする質問項目です。例えば、以下のような質問があり、回答に対してスコアがつきます。(質問はあくまでも例であり、変動する可能性があります。)
・気候関連リスクおよび機会を特定し、評価し、およびそれに対応するプロセスを有していますか?
・御社は短期、中期、および長期の時間的視点をどのように定義していますか?
・御社では、事業に対する財務または戦略面での重大な影響を、どのように定義していますか?
・気候関連リスクおよび機会を特定、評価する、およびそれに対応するプロセスについて説明してください。
・御社の気候関連リスク評価において、どのリスクの種類が検討されています?
・御社の事業に重大な財務的または戦略的な影響を及ぼす可能性がある潜在的な気候関連リスクを特定しましたか?
・御社の事業に重大な財務的または戦略的な影響を及ぼす可能性があると特定されたリスクを記入してください。
・御社の事業に重大な財務上・戦略上の影響を及ぼす可能性がある気候関連機会を特定したことがありますか?
・御社の事業に重大な財務的または戦略的な影響を及ぼす可能性があると特定された機会の詳細を記入してください。
「気候変動のリスクや機会を事業戦略に組み込めているか」を明らかにする質問項目です。例えば、以下のような質問があり、回答に対してスコアがつきます。(質問はあくまでも例であり、変動する可能性があります。)
・気候関連リスクと機会は御社の戦略および/または財務計画に影響を及ぼしましたか?
・御社の低炭素移行計画は、定時株主総会における議案として予定されていますか?
・御社は今後2年以内に低炭素移行計画を発表する予定ですか?
・御社は戦略策定のために、気候関連シナリオ分析を使用していますか?
・御社の気候関連シナリオ分析使用の詳細を記入してください。
・気候関連リスクと機会が御社の戦略に影響を及ぼしたかどうか、どのように及ぼしたかを説明してください。
・気候関連リスクと機会が御社の財務計画に影響を及ぼしたかどうか、どのように及ぼしたかを説明してください。
「GHGの排出量目標を適切に設定できており、目標に対して進捗しているか」を明らかにする質問項目です。例えば、以下のような質問があり、回答に対してスコアがつきます。(質問はあくまでも例であり、変動する可能性があります。)
・報告年に有効な排出量目標はありますか?
・排出量総量目標と、その目標に対する進捗状況の詳細を記入してください。
・排出量原単位目標と、その目標に対する進捗状況の詳細を記入してください。
・報告年に有効なその他の気候関連目標を設定しましたか。
・低炭素エネルギー消費または生産を増加させる目標の詳細を記入してください。
・メタン削減目標を含むその他の気候関連目標の詳細を記入してください。
・ネットゼロ目標の詳細を記入してください。
・報告年内に有効であった排出量削減活動がありましたか?これには、計画段階及び実行段階のものを含みます。
・実施段階別の削減活動の総数と推定排出削減量 (CO₂換算) をお答えください。
・報告年に実施された排出削減活動の詳細を記入してください。
・排出量削減活動への投資を促進するために御社はどのような方法を使っていますか?
・御社の製品やサービスに関して低カーボン製品に分類されるものはありますか?もしくは、御社の製品やサービスによって第三者がGHG排出を削減できますか?
・低炭素製品に分類している、あるいは第三者がGHG排出を回避できるようにする御社の製品および/またはサービスの詳細を記入してください。
「適切なGHG排出量の計算方法を選択できているか」を明らかにする質問項目です。例えば、以下のような質問があり、回答に対してスコアがつきます。(質問はあくまでも例であり、変動する可能性があります。)
・基準年と基準年の排出量(スコープ1および2)を記入してください。
・活動データの収集や排出量の計算に使用した基準、プロトコル、または方法論の名前を選択してください。
・活動データの収集や排出量の計算に使用した基準、プロトコル、または方法論の詳細を記入してください。
「GHGの排出量を適切に計算できているか」を明らかにする質問項目です。例えば、以下のような質問があり、回答に対してスコアがつきます。(質問はあくまでも例であり、変動する可能性があります。)
・御社のスコープ1全世界総排出量はCO₂換算で何トンでしたか?(C6.1)
・スコープ2排出量を報告するための御社のアプローチを説明してください。(C6.2)
・御社のスコープ2全世界総排出量はCO₂換算で何トンでしたか?(C6.3)
・スコープ1とスコープ2報告バウンダリ(境界)内で、開示に含まれない排出源(例えば、特定の温室効果ガス、活動、地理的場所など)はありますか?(C6.4)
・報告バウンダリ(境界)内であるが、開示に含まれないスコープ1および2排出量の発生源の詳細を記入してください。(C6.4a)
・御社のスコープ3全世界総排出量について、除外項目の開示とともに説明してください。(C6.5)
「温室効果ガスの排出量の内訳を適切に算出できているか」を明らかにする質問項目です。例えば、以下のような質問があり、回答に対してスコアがつきます。(質問はあくまでも例であり、変動する可能性があります。)
・温室効果ガスの種類別のスコープ1排出量の内訳を把握していますか?
・スコープ1総排出量の内訳を温室効果ガスの種類ごとに回答し、使用した各地球温暖化係数(GWP)の出典も記入してください。
・スコープ1総排出量の内訳を国別/地域別で回答してください。
・スコープ1排出量の内訳として、その他に回答可能な分類方法を回答してください。
・事業部門別のスコープ1全世界総排出量の内訳を示してください。
・施設別のスコープ1全世界総排出量の内訳を示してください。
・活動別のスコープ1全世界総排出量の内訳を示してください。
・スコープ2総排出量の内訳を国別/地域別で回答してください。
・スコープ2排出量の内訳として、その他に回答可能な分類方法を回答してください。
・事業部門別のスコープ2全世界総排出量の内訳を示してください。
・施設別のスコープ2全世界総排出量の内訳を示してください。
・活動別のスコープ2全世界総排出量の内訳を示してください。
・報告年における排出量総量(スコープ1+2)は前年と比較してどのように変化しましたか?(C7.9)
・総排出量(スコープ1と2の合計)の変化の理由を特定し、理由ごとに前年と比較して排出量がどのように変化したかを示してください。(C7.9a)
・C7.9およびC7.9aの排出量実績計算は、ロケーション基準のスコープ2排出量値もしくはマーケット基準のスコープ2排出量値のどちらに基づいていますか?
「エネルギー関連のGHGの排出量を適切に算出できているか」を明らかにする質問項目です。例えば、以下のような質問があり、回答に対してスコアがつきます。(質問はあくまでも例であり、変動する可能性があります。)
・報告年の事業支出のうち何%がエネルギー使用によるものですか?
・御社がどのエネルギー関連活動を行ったか選択してください。
・御社のエネルギー消費量合計(原料を除く)をMWh単位で報告してください。
・御社の燃料消費の用途を選択してください。
・御社が消費した燃料の量(原料を除く)を 燃料の種類別にMWh単位で記入してください。
・御社が報告年に生成、消費した電力、熱、蒸気および冷水に関する詳細を記入してください。
・C6.3で報告したマーケット基準スコープ2の数値において、ゼロ排出係数として計上した電力、熱、蒸気、および/または冷却量について詳細を記入してください。
「報告したGHG排出量は適切に検証できているか」を明らかにする質問項目です。例えば、以下のような質問があり、回答に対してスコアがつきます。(質問はあくまでも例であり、変動する可能性があります。)
・報告した排出量についての検証/保証の状況について回答してください。
・スコープ1排出量に対して行われた検証/保証の詳細を記入し、関連する検証報告書を添付してください。
・スコープ2排出量に対して行われた検証/保証の詳細を記入し、関連する検証報告書を添付してください。
・スコープ3排出量に対して行われた検証/保証の詳細を記入し、関連する検証報告書を添付してください。
・C6.1、C6.3、およびC6.5で報告した排出量値以外に、CDP開示で報告する気候関連情報を検証していますか?
・御社のCDP開示の中のどのデータポイントを検証しましたか、そしてどの検証基準を使用しましたか?
「カーボンプライシングに関するリスクを適切にコントロールできるか」を明らかにする質問項目です。例えば、以下のような質問があり、回答に対してスコアがつきます。(質問はあくまでも例であり、変動する可能性があります。)
・御社の事業や活動はカーボン プライシングシステム(ETS、キャップ・アンド・トレード、炭素税)によって規制されていますか?
・御社の操業に影響を及ぼすカーボンプライシング規制を選択してください。
・規制を受ける排出量取引制度ごとに、記入してください。
・規制を受ける排出量取引制度ごとに、記入してください。
・規制を受けている、あるいは規制を受けると見込んでいる制度に準拠するための戦略はどのようなものですか?
・御社は報告対象期間内にプロジェクトベースの排出権を創出または購入しましたか?
・報告対象期間内に御社が創出または購入したプロジェクトベースの炭素クレジット の詳細を記入してください。
・御社は社内カーボンプライス(炭素価格)を使用していますか?
・御社が社内カーボンプライスを使う方法の詳細を記入してください。
「サプライヤーを巻き込んで気候変動のリスクや機会に対処できるか」を明らかにする質問項目です。例えば、以下のような質問があり、回答に対してスコアがつきます。(質問はあくまでも例であり、変動する可能性があります。)
・気候関連問題に関してバリューチェーンと協働していますか?
・気候関連のサプライヤーエンゲージメント戦略の詳細を記入してください。
・顧客との気候関連エンゲージメント戦略の詳細を示してください。
・バリューチェーンのその他のパートナーとの気候関連エンゲージメント戦略の詳細を示してください。
先に紹介したように、規模の大きなグローバル企業がCDPに賛同し、サプライヤーに対して情報開示を要請する動きが加速しています。そのため、多くの企業はCDPの質問書に備える必要があります。そして、それらを担当するのはESG担当者、CSR担当者、サステナビリティ担当者となるでしょう。ここでは、担当者がCDPの質問書に備えるためにすべきことを挙げます。
CDPのガバナンスの質問項目にもありましたが、高いスコアを獲得するためには、気候変動のリスクと機会に対処する責任者を取締役レベルとしなければなりません。そして、その責任者の元、適切なガバナンス体制を築く必要があります。体制を整えるには時間がかかりますので、まずは気候変動のリスクと機会に対処するプロジェクトチームを組成し、少しずつ体制を整えるのが良いかと思います。また、体制を整えつつ、以下のすべきことを先に進めておくことをお勧めします。
気候変動のCDP質問書に答える上で重要かつ優先度が高い項目は、自社のGHG排出量を算定・報告することです。先に紹介した以下の図からも分かるよう、GHGプロトコルシリーズを遵守することでCDP質問書の項目の多くに対し適切に答えることができるのです。
以下の2記事は、抑えるべきGHGプロトコルシリーズの「企業基準」と「スコープ3基準」について解説しています。ぜひ読んでみてください。
【温室効果ガスの算定・報告】全企業がまず抑えるべきGHGプロトコル「企業基準」とは
【温室効果ガスの算定・報告】バリューチェーン全体をカバーする、GHGプロトコル「スコープ3基準」とは
GHGプロトコルシリーズに則って、できる範囲からGHG排出量の算定・報告を始めましょう。まずはスコープ1、スコープ2の算定から始め、少しずつスコープ3の算定も行えるようにオペレーションを整えたり予算を獲得する必要があります。
以上、CDPの全体像の解説となります。
<参考>
本記事は、「CDP概要と回答の進め方」を参考に執筆しています。